読書感想文『ファッションビジネスの魔力』
著者 太田 伸之
ここ最近、アパレル系のマネジメントやビジネスを考える機会が多くこの本を読んでみることにしました。
著者はイッセイミヤケの社長
主な内容は、著者自身の自伝です。
これまでの経緯(著作時点で2009年)を綴っていると同時に日本のファッションビジネスの問題点や発展すべき方向性を説いています。
イッセイミヤケの社長になったようにデザイナーブランドのビジネスを中心に活動しており、日本の可能性を欧米の良い所を取り入れていくことで日本のアパレルに変化を起こした行動を知ることができます。
ちなみに今や世界でも有名になった「東京コレクション」を作り上げた人物です。
デザイナーの本ではなく、MD(マーチャンダイジング)の視点からファッションビジネスを分析して、提言までを行っています。
ただの成功したデザイナーがよくある自慢の成功本ではありません。
また経済記者やジャーナリストが評論を重ねたような情報編集をしたものではなく、現場で仕事をしてきた経緯があるからこそ重厚な内容になっています。
読書感想文
一言でいうと、ファッションビジネスに限らず、様々な業界で起きている問題の本質を突いています。
アメリカやヨーロッパと違い、日本のアパレル商習慣は独自の発展をしてきているが、その反動として今やアパレル不況になっている原因にもなっているわけです。
今ではファストファッションに代表されるように服自体への消費額は減少しています。
背景には携帯電話やコト消費など、支出の多岐化があるのも間違いではありませんが、それを言い訳にしても仕方ないと僕自身は、思っているんです。
欲しい服があればやはり買いますからね。逆に言えばそこまで欲しい服がない。
ないというより、きっとあるんだろうけれども、著者はメーカー側も百貨店側も話題づくりがうまく、新しいことにチャレンジすることがないと言い切っています。
常に挑戦する百貨店がないというのは共感しましたね。
いつまでたってもインターネット通販があるから、消費者がお金を使わなくなったとか言っているようでは煮え蛙のようにじわじわと苦しむしかありません。
消化仕入れなどは、基本的に百貨店側のリスクがないモデルであり、本気で売るという姿勢にならない原因です。
新興企業もリスクを押し付けられるくらいならば百貨店などに出店する選択肢はないわけです。
百貨店に出すというブランドイメージの強化はできても、それ以上のメリットがないんでしょう。実際稼がないといけないですからね。しかも百貨店がダサいと思う層も増加してきているわけですから。
一方、デザイナーもただデザインをしていて良いわけではない。経営者視点が必要であることを記していることにも注目です。
「デザイン」の意識はあれど、「商品」という視点がない。
これができている会社は今も世界から支持されているし、逆にできない会社は淘汰されていく運命なのは当然です。
デザインだけで勝負するなんてできない。はっきり言ってます。
日本のデザイナーが世界市場で欧米のデザイナーよりビジネス的に小粒に映るのは、小売オペレーションや生産管理におけるダイナミズムのなさです。「デザイン」はあっても「商品」の意識が薄く、なんでもかんでもクリエーションとイメージでものごとを進め、自らの壁を盲目的に守ってきたからではないでしょうか。ときにはブランドの壁を自ら越え、お客様に新しいマーチャンダイジングを提供できないものか、またプロダクトマネジメント強化できないものか
『ファッションビジネスの魔力』第2章から出典
つまり、商品のデザインからお客様に渡るまでの過程まで考えることが大切であるということです。
そこには生産管理や売り場の見せ方まで繊細に取り組まなくてはいけない。
しかしクリエイティブなものという曖昧なもので済まそうとすることでは世界に支持されるデザイナーズブランドと肩を並べられないということ。
「アート」ならデザインだけしてればいいのでしょうが、「商品」であることを盲目的になりがちです。
しかし、デザイナーがそこまで考えることはできるかと言えば僕は無理だと思います。
そこで必要なのが経営者という存在です。数字に明るく、経営戦略まで組める人材がデザイナーには必須です。
アップルのmacやiphoneを想像してもらえばわかりやすいと思います。
アップルの端末をデザインしているのは経営者ではなく、プロダクトデザイナーです。しかし企業として成功しているのは優れた経営能力があるからです。
日本の電機会社が全く同じもの(iphone)をアップルより先に出しててもここまで普及したでしょうか。
実際SONYがアップルより先行して技術的にも優れた携帯電話やポータブルプレーヤーを発売し続けてきていました。
しかし、自社のブランドを囲むように壁を作り続けてきた結果、今や厳しい状況に追い込まれています。
しかもそこから抜け出せないのも企業としてブランドを過剰に大切にしすぎているからです。
なにもファッションビジネスに限らず、他の業界においても同じような現象は起きているということです。日本人企業の気質という所なんでしょうか。
ファッションビジネスを学びたい方はもちろんですが、日本の商習慣や海外との経営思想の差を知りたい方、ビジネスの基本を再度確認したい方にオススメする一冊です。